メルマガ第11号
かつお節の包装をラマン顕微鏡で見ると?


先日、プラスチックを研究する大学教授から「食品の包装のプラスチックは多層になっている」と聞きました。それぞれ「酸素を通しにくい」「突き刺し防止」などの機能を持つプラスチックが、何重にも重なっているというのです。しかし、いくらじっくり観察しても透明な1枚のシートにしか見えません。そこで「ラマン顕微鏡なら見分けられるかも」と思いつき、ナノフォトンの社員に測定をお願いしてみました。(メルマガ編集長・根本毅/フリーライター)

食品を包装する多層のプラスチックは「ラミネートフィルム(多層性フィルム)」と呼ばれ、高機能化が進んで多くの製品で使われるようになっているようです。

その教授には、プラスチックのリサイクルについて話をうかがっていました。多層性フィルムは異なる種類のプラスチックが重ね合わされているため、そのままプラスチック製品の原料に再生する「マテリアルリサイクル」は困難なのだそうです。教授は「それがリサイクルの大きな課題の一つ。食品メーカーにとっては安全も大事だし、非常に難しい問題」と話していました。

さて、ラマン顕微鏡での測定です。今回のサンプルは、かつお節の包装にしました。削り節を小分けにしているパックです。ナノフォトン社に「測定したい」と伝えたところ、サービス担当の島端要典さんが2種類のフィルムを準備してくれました。

測定したかつお節の包装を手で示す島端要典さん。奥にあるのが測定に使ったレーザーラマン顕微鏡「RAMANtouch」

ここで、ラマン顕微鏡のおさらいをしておきましょう。分子にレーザーを当てると散乱光が出てきます。散乱光の大部分はレーザーと同じ波長ですが、異なる波長の光もわずかに含まれています。このわずかに出る光は「ラマン散乱光」と呼ばれ、さまざまな波長の光が含まれます。ラマン散乱光を波長ごとに分離して示したグラフ(スペクトル)は分子によって特徴が異なるため、ラマン散乱光を分析すればどんな分子かが分かるわけです。ラマン散乱光の特徴を基に分子を色分けし、顕微鏡の視野で分布を見えるようにしたのが、ラマン顕微鏡です。

かつお節パックに戻ります。測定には、高い空間分解能かつ高速で測定できるRAMANtouchを使いました。パックのフィルムを小さく切り、スライドガラスに載せて装置にセット。後は、パソコンで操作をします。今回は層になっている状態を見たいので、深さ方向に測定します。サンプルを切らずに断層のイメージが見られるのも、RAMANtouchの特長の一つです。

RAMANtouchにサンプルをセット

「条件をセットした後に、測定開始ボタンを押せば自動で測定が始まります」と島端さん。さらに説明を受けている間に、約2分30秒で測定が終わりました。フィルム全体の厚さは約60マイクロメートルでした。

測定した分子のラマンスペクトルに特徴的なピークで色分けすると、きれいに3層に分かれて見えました。プラスチックの種類は、上(パックの外側)から順にポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン。島端さんが事前に測定し、数万のラマンスペクトルのデータが登録されたスペクトルライブラリで検索した結果、分かったのだそうです。

測定の結果、3層構造と判明
3層それぞれのラマンスペクトル(見やすいように上下にずらしてあります)

もう1種類のかつお節パックのフィルムを測定すると、上がポリエチレンテレフタレート、下がポリエチレンの2層構造。メーカーによってフィルムの組成が異なっていることが分かりました。

組成と構造が異なる2種類のかつお節パック。左は3層、右は2層だった

透明なプラスチックのシートも、ラマン顕微鏡で測定すると全く違って見えます。多層と聞いただけなのと、実際に目で見るのとでは大違い。とても面白い体験でした。プラスチックって奥深いですね。この話題、もう少し続けます。

※2020年10月2日追記

9月30日にアップした原稿で、もう1種類のフィルムの上の層を「ポリスチレン」としていたのは「ポリエチレンテレフタレート」の誤りでした。修正しています。

また、記事中の図は、取材時の測定データを基に見やすく修正し、差し替えました。